デジタルマーケティング市場の変化とMCMの関係

マーケティング・キャンペーン・マネジメント(MCM)はマーケティング活動をナレッジとして蓄積・再利用し、マーケティング組織の能力を向上させます。AD EBiS Campaign ManagerはMCMプロセスを組織に定着させる仕組みを提供します。
IT技術やインターネットを活用して顧客との関係構築を行うデジタルマーケティングは、媒体や技術の進化にあわせて施策成果を左右する要因が大きく変化してきました。そして企業が競合環境の中で持続的に成果を高めるために、組織としてどのようにマーケティングに向き合うかという姿勢そのものも進化してきています。
本稿では、国内デジタル広告の変遷を振り返りつつ、変化の激しい市場で組織のマーケティング力を持続的に高めるために重要な考え方である「MCM(マーケティング・キャンペーン・マネジメント)」との関係性について解説していきます。
国内におけるデジタル広告の変遷
インターネット広告が国内に登場してからおよそ四半世紀。日本のデジタルマーケティングは、媒体や技術の進化にあわせて大きな変遷を遂げてきました。
本章では、日本国内におけるデジタル広告の進化を大きく三つの潮流「予約型広告」「運用型広告」「プログラマティック広告」に区分し、それぞれが主流となった時代背景や差別化要因の変化について解説します。
①予約型広告:媒体の選定力が広告効果を左右する
インターネットが急速に普及し始めた1990年代後半~2000年代前半、デジタル広告の主流は「予約型広告」でした。これは広告主があらかじめ媒体社が保有する広告枠と配信期間を指定して購入する仕組みで、紙媒体やテレビの広告枠の販売方法に近いものです。
また当時の広告出稿は「メディアレップ」と呼ばれる仲介会社を通じて行われるのが一般的で、彼らが広告主と媒体社の橋渡し役を果たしました。なお国内最初のメディアレップは、1996年設立のCCI(サイバー・コミュニケーションズ)とDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)です。
当時の広告主にとってインターネット広告はまだ新しい試みであり、効果測定の仕組みも現在ほど整備されていませんでした。そのため、この時代における広告主の競争優位性は「どの媒体に、どれだけ有利な条件で広告を出せるか」が極めて重要で、媒体選定のノウハウや広告枠の買付交渉力が広告効果を大きく左右しました。
特にポータルサイト(Yahoo! JAPANやExcite、Infoseekなど)が強い影響力を持っており、トップページや主要カテゴリーに広告を出すことで一気に認知を高めることが可能でした。
広告の形態は単一画像のバナー広告が主流でしたが、Adobe Flashによる表現豊かな「Flash広告」なども導入され始めています。またクリック数やインプレッション数といった指標は徐々に取り入れられましたが、基本的には「広告枠の目立ちやすさ」や「媒体のブランド力」が価値を決めていた時代です。
②運用型広告:指標管理と改善力が成功のポイント
2000年代前半、予約型広告に代わって登場したのが「運用型広告」でした。これは、広告枠をあらかじめ押さえるのではなく、配信対象や入札価格を広告主側で柔軟に調整しながら運用する仕組みの広告です。
2002年にOvertureが日本市場に参入し、検索結果ページに表示される「検索連動型広告」を提供したのが転換点となり、同年にはGoogleもAdWords(現Google広告)を導入。これにより、広告は「枠を押さえるもの」から「ユーザー行動に応じて出すもの」へとシフトしました。2000年代後半にブロードバンド回線が普及し、インターネットが生活インフラとして一般家庭に浸透してきたのもシェア拡大の要因です。
さらに検索広告の成功を受けて、ディスプレイ広告や動画広告、SNS広告など新しいフォーマットが続々と登場。特に2000年代後半~2010年代前半にかけて、YouTubeやFacebookといったプラットフォームが台頭し、Web検索以外の場でもPPC(クリック課金型)モデルをベースとした広告が主流となっていきました。
運用型広告では、検索ワードやユーザー属性、時間帯、地域など細かい条件でターゲティングが可能です。広告主や代理店は日々のKPI(クリック率、コンバージョン数、CPAなど)を見ながら改善を繰り返すのが特徴でした。
そして広告成果を決定づける最大の差別化要因はこうした数々の広告指標の管理能力と、目標達成に向けた運用の改善力です。キーワード選定のセンス、予算配分や入札価格の調整力、クリエイティブ(広告文・バナー)のABテスト設計など、広告運用のノウハウと実行力が、競合との差を大きく分けました。
さらに代理店を介さず誰でも管理画面から広告を入稿・運用できるようになり、広告市場が“民主化”。大きな媒体や代理店を選ぶことよりも「運用をどう最適化するか」が広告効果を分けるポイントとなったのもこの時代の特徴です。
③プログラマティック広告:差別化要因は「運用力」から「企画力」へ
2010年代後半から現在にかけて、デジタル広告の主流となったのが「プログラマティック広告」です。従来のように人がキーワードや入札額を細かく調整するのではなく、データとアルゴリズムを活用して自動的に広告配信を最適化する仕組みです。
代表例がRTB(リアルタイムビッディング)で、ユーザーがWebページを開く瞬間にDSPとSSPを介して入札が行われ、最適な広告が即座に表示されます。これにより広告は「誰に」「どのタイミングで」「どの価格で」配信するのが最適かをAIが判断するようになりました。
この時期はスマートフォンが完全に生活に定着し、SNS・動画・ECなど、ユーザーのオンライン行動が多様化・複雑化しました。従来の運用型広告のように人間が全てを最適化するのは難しくなり、AIや機械学習に基づく自動化が不可欠となりました。
GoogleはGDNで「スマート自動入札」を導入し、Facebookは「CBO(キャンペーン予算最適化)」を提供、Amazonも「自動ターゲティング広告」を展開するなど、主要プラットフォームがこぞってプログラマティック化を推進しました。
一方、運用型広告で最重視されてきた「運用力」の格差は小さくなりました。AIが自動的に最適な入札や配信調整を行うため、基本的な運用は誰でも一定の成果が出やすい構造になったのです。
その結果、競合との差別化要因は「企画力」へと移行。「AIが運用を担い、人は戦略と企画に専念する」というのが現在のトレンドであり、広告主や代理店にはよりクリエイティブで構想力のある役割が求められるようになりました。
- 誰に(ターゲット像の明確化)
- 何を(提供価値・USPの整理)
- どのように(クリエイティブの工夫)
- いつ・どこで(配信タイミング・チャネル選定)
いわゆる「5W1H」の設計力が、広告効果を左右する決定的な要因になっています。データドリブンの環境下でも、ブランドの文脈や消費者インサイトを踏まえた戦略設計は不可欠です。
デジタルマーケティングの重点は「5W1Hの企画力」
かつてのデジタル広告(予約型広告)では、いかにして知名度が高く訪問者数の多い媒体に出稿するか、「どこ」に出すかが広告効果を大きく左右していたため、広告主や代理店の選定眼や交渉力が競争優位の源泉となっていました。
しかし近年は、Googleなどに代表される広告プラットフォームの発展やAIによる自動最適化が進んだことで、配信先メディアの差による効果の違いは小さくなりつつあります。いわば広告の配信先はコモディティ化しており、単純なメディア選定だけでは競争優位を築きにくくなったのです。
その結果、相対的により重要になっているのが「誰に・何を・どのように届けるか」という企画力です。ターゲット像を正確に描き、提供する価値やメッセージを整理し、それを最適な表現やフォーマットで届ける。こうした広告展開の設計力が、同じ広告枠や同じ入札環境でも成果を大きく左右する要因となっています。
マーケティング施策のPDCAを阻む要因とは
デジタル広告を含む諸々のマーケティング施策において「誰に・何を・どのように届けるか」の企画力とそれを柔軟に設計する「5W1H」の視点がより重要になっている一方、多くの企業で、企画設計や施策を効果的に改善するためのPDCAサイクルがスムーズに回りにくくなるという課題を抱えています。
その背景にあるのは、デジタル広告特有の複雑性です。広告が配信されるチャネルやタイミング、競合他社の動き、クリエイティブの内容やユーザー心理など、複数の要素が複合的に絡み合い、全く同じ条件で施策を再現するのはほとんど不可能です。こうした条件の多様性が、過去の実績を次の企画設計に生かせず単なる「成功例・失敗例」として埋もれてしまう要因となっています。
さらに実務の現場では、施策ごとの背景や狙いが十分に記録されなかったり、実施後の振り返りが形式的にとどまったりすることが少なくありません。たとえ数値のレポートが存在しても、その施策を実行した意図や前提条件が曖昧なままでは、数字だけを見ても次回の改善に直結しにくいのです。結果として「やりっぱなし」で終わってしまい、PDCAの「C(Check)」や「A(Act)」が機能不全に陥るケースが多く見られます。
施策成果の蓄積・共有と体系的なフィードバックを
つまるところ、マーケティング施策のPDCAが回りにくくなる要因は、
- 施策条件の複雑性による学び・再現の困難性
- 施策の背景・狙いの記録や振り返りの不十分さ
の2点に集約されるといえます。
これらを克服するためには、ただやみくもに広告配信や施策を行うのではなく、またその成果を数値管理するだけにとどまらず、「なぜその施策を行ったのか」という狙いや背景、施策条件まで明確に記録し、組織で共有・蓄積する仕組みが不可欠です。そして記録された結果の分析とフィードバックを体系的に行うことで、マーケティングの属人化を防ぎ、再現性と持続性を備えた組織能力を培えます。
そして「MCM(マーケティング・キャンペーン・マネジメント)」のコンセプトは、まさにこの方向性に合致するものです。
「MCMプロセス」がデジマ市場で勝つための組織能力を育てる
MCM(マーケティング・キャンペーン・マネジメント)とは、企業のマーケティング活動を【選択⇒実行⇒効果測定⇒フィードバック】のサイクルで継続的に管理する考え方です。
上述の通り、各種マーケティング施策はその条件設定の複雑さゆえに「学びや再現が難しい」という課題や、背景・狙いの記録不足による「振り返りの不十分さ」といった問題を抱えがちです。この点でMCMプロセスは、施策を実行するだけでなくその効果を測定・分析し、得られた結果を次の施策の選択にフィードバックさせるプロセスを「仕組み化」し、PDCAを推進する上での課題を解消します。
MCMサイクルの実践を通じて、企業は属人的な取り組みから脱却し、再現性と持続性を持ったマーケティングを実現する組織能力を育て、企業のパフォーマンスを大きく改善できるのです。
MCMプロセスを無理なく始められる「AD EBiS Campaign Manager」
弊社が開発した「AD EBiS Campaign Manager(アドエビスキャンペーンマネージャー)」は、MCMプロセスを組織に定着させるために開発したツールです。
マーケティングのPDCAを「実行管理」「振り返り補助」「施策立案」の3段階に分類し、各段階に必要な取り組みを簡単かつ効率的に実行できる機能を搭載しています。
- 実行管理
キャンペーンの目的・ターゲット・実施内容・クリエイティブなどの情報を施策単位で一元管理。過去の施策は様々な条件で検索できます。 - 振り返り補助
キャンペーンの実施成果を記録・蓄積できます。実施内容と数値結果を施策単位で可視化し、数値に対する評価と学びを得られます。 - 施策立案
AIが過去の施策データや成果、そこから見えてくる傾向を自動で解析・学習した上で、新規施策の立案や既存施策の改善を支援します。

「AD EBiS Campaign Manager」の導入により、MCMの考え方に沿った体系的かつ継続的なキャンペーン管理を行えます。単発で終わりがちな取り組みも循環性のある学習プロセスとして定着でき、過去のキャンペーンから得られた成果や知見は組織全体のナレッジとして振り返りや改善に活用可能。施策の再現性を高めると共に着実な成果向上を実現します。
「AD EBiS Campaign Manager」については、詳しい資料をご用意しておりますので、ぜひご覧ください。







